晴れた日のねどこ

答えの出ないことばかり考えている

宝石の目

晴れた日のねどこ 宝石の目

 

 


宝石のような目をした人に会ったことがある。


日本人でも稀に緑がかった目をした人はいるが、
彼は緑や青や黄色のかけらが散りばめられたような目の色をしていた。

はっきりと聞いたことはないけれど、
肌や髪の色、骨格や顔立ちは東洋人のそれだったから、
西洋との混血というわけではなかったんだろうと思う。



初めて会話をした日に、その目の色の美しさに息を飲んだ。
だけど、最後に会話をした日まで、それについてわたしが褒めることはなかった。


それが彼を傷つけるかもしれないと思ったからだ。(※)





美しさというのは、わかりやすい力だ。
その力に圧倒され、抱えきれなくなったとき、心に湧いた称賛の気持ちを相手に伝えたくなる。
だけど、いつだってそれには覚悟が必要だった。少なくともわたしには。

その称賛は「あなたは異物だ」という宣告にも繋がるからだ。



悪意に満ちた侮蔑が人を追い込むことは誰にでもわかる。
だけど、称賛が人を孤独に追いやることに気づいている人は、きっと少ない。
美しさも醜さも、突き詰めれば等しく呪いだ。
そのどちらもが「自分と相手は違う存在だ」という宣言には変わりがない。


この国では、他者との違いはギフトとしてより、きっと呪いのように感じることが多い。





宝石のような目をした彼について話をしたら、
「それは言っても良かったと思う」と言う人がいた。
あなたのその言葉が、その人の宝物になるかもしれないからと。


そうなのかもしれない。


もしまたどこかで逢うことがあれば、
「相変わらずきれいな目だね」なんて
軽い調子で、無邪気なふりをして言えるかもしれない。
今なのか、未来なのか、それがいつかはわからないけど、
その言葉が彼の宝物になる日がくるのかもしれない。(※1)


だけどわたしには、まだ答えが見つからない。


やっぱり、それを伝えるのは、少し怖い。






先日参加したspiさんのファンミーティングで、
少し気になった言葉がある。

a thousand miles でノリ方を教えてくれたとき。
言葉がよくわからない、と笑いながら言ったとき。

「俺って外人だから」

明るく言ったその言葉に、少しだけ胸がざわついた。




そしてステージから客席に降りたとき。

「実在するよ! 俺って人間なんですよ!」

そう笑った姿に、息が詰まった。




舞台でライトを浴びる人は華やかだ。
同じ人間じゃないみたいだ、そう思う。

いかに「異物」として振る舞い、
「特別な存在」として自分を他者に認識させるか。


時間や能力を投入し、自分自身を武器として戦う場所で
そう思わせるのはきっと必須で、
なのにわざわざ客席に降りて話す姿は
何度も何度も「あなたとわたしは同じだ」と言ってるみたいに聞こえて、
だから、なんだか、どうしていいかわからなくなってしまった。




私たちが美しいと感じる彼の容貌は、
ブロードウェイで一度「アジア人だから」と言い渡されたものだ。

めぐまれた大きな身体も、
彫りの深い顔立ちも、
ピンクがかった白い肌も、
トパーズのような目も、
私たちから見たら私たちと違うように見えるのに、
なんだか不思議だ。(※3)




「俺って外人だから」

それはただ、違いを端的に表すのに便利な言葉だ。

言葉というのは、気持ちのぜんぶを掬いきれない。
いつでも何かが少しこぼれる。
それを知っているから、なんだか落ち着かない気持ちになる。




そして、だからこそ、やっぱり少しだけ考えてしまうのだ。

自分と同じだと思っていた相手に、
「あなたとわたしは違う」と言われたときの気持ちを。






自分自身を武器として戦うならば、
他人との違いは当然有効な手札のひとつだ。


昔すれ違った人には伝えられなかったけれど、
自分自身を晒して戦う、その覚悟を決めた人たちには
積極的に伝えたいなと思う。

なるべく大きな声で、聞こえるように。
惜しみなく。


あなたは素敵だ
あなたが好きだ
あなたのことをみていたい


あなたが授けられ、
錆びないように磨いてきたその武器が、
あなたの道を切り拓き、
あなたを守る力になりますように。



宝物になるようなものかはわからないけれど、
選んでくれたその道を照らす光のひとつとして
この言葉が届けばいいなと思う。








彼の目はオパールのように美しい色をしていた。
可能性のひとつとしてだが、疾病により後天的にその色になった場合、本人の中で折り合いがついていない場合もある。
また、薄い色の虹彩は光に弱く、サングラスで目を保護しないと難儀するという人物も知っている。


※1
かけた言葉が宝物になりすぎた場合、意図しないかたちでの好意を向けられることもある。
容姿に関しては、善かれ悪しかれ、あまり触れないのがスマートだというのが私の持論だ。それを武器にしているタイプの「一般人」には場合により言うことはあるけれど。
あと、脱線する(し、自分の中でのイレギュラーではある)けど、褒めて欲しいオーラを出す人を褒めると大層かわいい顔をして喜びますよね。すき。

 
※3
いますぐトパーズの語源や石言葉を調べてくれ。これは詳細を省くが結論だけ言うとお前は死ぬ。
「えっ、spiさん!? やだ…なにこれ奇跡…?」と思って死ぬ。ちなみにわたしは死んだ。
 
 
 
 
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