晴れた日のねどこ

答えの出ないことばかり考えている

他者に与えられた役割から脱却し、皆が新しい自分を掴み取る話〜シュレック・ザ・ミュージカル

 

 

2022年のトライアウト公演を経て、2023年7月、シュレック・ザ・ミュージカル フルバージョンが上演されました。

映画「シュレック」を元に2008年にブロードウェイでミュージカル化された作品の日本版。全員オーディションで選ばれただけあって、めちゃくちゃ歌がうまい…!

特に今回のフルバージョンは追加されたナンバーもあり、歌唱力で圧倒されるシーンが多々ありました。


本作は4歳〜18歳以下の子供を各回250名、無料招待をしている*1ので、ファミリーミュージカルかと思われがちですが、大人でも十二分に楽しめる素敵な作品でした。

というか、もしかしたら大人の方がグッとくるかもしれない。すっかり擦れてしまった大人は、この舞台のピュアさに触れた時に胸打たれるんじゃないかな…。子どもとは別の部分で刺さる気がする。

全公演が終わったのをさみしく思いつつ、記録として感想をブログに残しておきます。




【あらすじ】

物語の主人公は、人里離れた森の沼のほとりに住む、怪物・シュレック
彼にまつわる恐ろしい伝説とは裏腹に、気ままな生活を送っていました。
そんなある日、領主・ファークアード卿によって国を追放されたおとぎ話の住人たちが、
シュレックの住む森に押し寄せてきます。
静かな生活を取り戻したいシュレックは、追放令を取り消すよう交渉。
真の王になるためにプリンセスとの結婚を目論んでいたファークアード卿は、
「自分の代わりにドラゴンと戦って、囚われの姫・フィオナを救い出せ」という交換条件を出します。
仕方なくシュレックは、お調子者の喋るロバ・ドンキーを道連れに、
沼を取り戻すため冒険の旅に出たのですが・・
公式サイトより



ストーリーはとてもシンプルでわかりやすいです。
だけど、読み解いていくとあれ?と思うところも多い。ひとつずつ見ていきたいと思います。

 

 

与らえれた役割、あるいは呪いについて

オーガのしきたりによって、シュレックは7歳で独り立ちをさせられます。
餞の言葉として両親から贈られたのは、君はキモいし人生は辛い、世界は美しいが夢は叶わないし友達もできない、という言葉でした。な、なんという呪い…!
オーガはこういうものだから世界に期待をするな、という呪いをかけられ、シュレックは「オーガらしく」生きることを選びます。

フィオナは7歳で塔に幽閉されます。理由は「何百年も前からたくさんのお姫様がそうされてきたから」。塔の中で繰り返し読んだ本には、王子様に助けられるお姫様のお話が。
フィオナはお姫様は素敵な王子様に助けられるものだと信じ、塔で暮らします。

デュロックの領主ファークアードは、「完璧な王」としてデュロックを治めるべく、自分と結婚をしてくれるお姫様を求めます。

おとぎ話の住人たちは、自分が描かれた物語に不満を持ちつつも、そこから逸脱した行為をすることなく暮らしています。

 


シュレックはひねくれ者ではない

ブラックユーモアが散りばめられた映画の印象から、シュレックはひねくれ者だと思っていました。が、ミュージカルを観て、シュレックって実はすごくピュアで真っ直ぐなのでは?と感じました。

シュレックは、オーガだからという理由で松明で尻を焼かれた過去があるのですが、それにも関わらず、「人間が嫌い」だとは一言も言っていない。

M2『Story Of My Life / 僕の人生』でシュレックは、きれいな世界はいらない、くだらないと吐き捨てています。ですが、その世界を「蓋を閉めてどこかにしまっとけ」と言うんですよね。あれ、これ、捨てておけ、じゃないんだ!と歌詞を聞いた時にちょっとびっくりしました。


そして1幕の最後、ドンキーに尋ねられた時、はじめは拒否するものの、自分の夢を語れる素直さがある(M12『Who I'd Be / 誰かになれたら』)。しかも、ヒーローになりたい、ヴァイキングもいいな、詩人もいい、と次々と挙げられる。これ、世界を憎んでいたら出てこない願望ですよね。

つまり、普段「きれいな世界」を遠ざけてはいるものの、あきらめてはいない。


あれ、めちゃくちゃピュアでいいやつじゃんシュレック…!


見た目や種族で差別をされたら、もっと自暴自棄になるんじゃないかなあ。でもシュレックは外に攻撃性を発揮するんじゃなく、内側に向かってるんですよね。




「どうしてオーガの力を使って(ファークアードから)沼を取り返さなかったのか」

ドンキーがシュレックに尋ねるシーンがあります。
シュレックは自分のことを玉ねぎだと例えます。オーガは皆が思うように単純ではない、玉ねぎのように積み重なっている層、レイヤーがある。

シュレックの場合、「きれいな世界」への憧れ、それと同時に抱えている諦念などが層なんだろうな。シュレックはオーガには層があると言いましたが、これって他の人たちにも当てはまりますよね。人間てそんなに単純じゃないし、色々な側面や層がある。
この例えって、オーガも人間と同じだと語っているようにも思えます。



決めつけられたくないと思いながらも、他人のことは決めつけがちなわたしたち

「お姫様はいつもネズミと遊んでるのかい?」
「バイキンだらけのお姫様ってあんまり聞かないから」
これは2幕のはじめのほうのシュレックのフィオナへの問いかけです。

シュレックは、「オーガだからこう」と決めつけられることを嫌がっています。が、それにも関わらず、フィオナのことは「お姫様なのに」と決めつけてる。

それに対し、よく知らないのに決めつけるのは良くないと返すフィオナですが、彼女も「運命の人は◯◯」だという固定観念にとらわれています。



思い込みが激しいフィオナ

7歳で塔へ幽閉されたフィオナ。
シュレックが助けに行くまで続いた塔での生活は、なんと23年。

フィオナはひとり塔の中で、繰り返し童話を読んで過ごします。閉じ込められて一ヶ月目も、2年目も、23年目も。そこに書いているのは自分と同じようなお姫様の物語。そのどれもが「運命の王子様」と出会い、幸せに暮らします。


本の影響なのか、フィオナってすごく「こうあるべき」って考え方が強い。

「お姫様は勇敢な騎士様に助けられる」べきだし、「騎士様は名馬を従えている」ものだし、「お姫様の運命の人は、自分を助けてくれた騎士様」で、「運命の二人は初めてのキスを交わす」ものだと信じてる。

自分を救った騎士との出会いのシーンは、ロマンチックな時間になるものだと思っているので、その気がないシュレックにもそれを強要しようとする。
 


俺、俺、俺。よく似た登場人物たち

他者との接触を避け、沼に住むオーガ(怪物)のシュレック
7歳から20年間、ドラゴンが守る塔で、ひとり孤独に暮らしていたフィオナ姫。
「完璧な王」になるために、姫を娶ろうとするファークアード卿。

立場が違うこの3人ですが、実は結構似ている。
特にフィオナとファークアード。

フィオナは運命の相手と「真実の愛のキス」を交わすことにこだわっています。
王子様に助けてもらえると信じていたフィオナでしたが、自分を救い出したのがオーガのシュレックだと知り、落胆します。そして、彼にドラゴン討伐を命じたのがファークアード卿だと教えられ、彼との結婚を望みます。

それは自分にかけられた魔女の呪いを解くため。

彼女は夜になると、魔女にかけられた呪いのせいで「不恰好で醜い」姿になってしまいます。それを解くことができるのは、運命の相手との真実の愛のキスだけ。


ファークアード卿は領主から「完璧な王」になるため、姫であるフィオナとの結婚を望みます。(ところで、なんで姫と結婚したら王になれるんだろう。養子とかそういうこと…?)
シュレックに指摘されているように、ファークアードは王になるためだけに結婚をしたいと思っている。

フィオナとファークアードって似てるんですよね。結婚が、自分の願望を叶えるための手段になっている。つまり相手をひとりの人間として扱っていない。
 
フィオナのこの傾向は歌詞の中でも顕著で、M6『I Know It’s Today / 今日こそだと信じて』には「お金持ちの王子様に見染められる」という歌詞が。 M11『This Is How A Dream Comes True / こうして夢は叶うの』で、「お姫様は王子様をゲットする」という一節があります。

これを聞いた時、わーすごい、人間をアイテム扱いしてる!とちょっとびっくりしました。


そしてシュレック
彼は物語の終盤、ドンキーに言われます。
「出たよ、俺俺俺!」「君は自分の気持ちが怖いんだ」

オーガという種族やその見た目のせいで判断されることが多かったシュレックは、自分の気持ちを表に出すのが苦手で、そのせいで一人でいることを選んで生きてきました。
近づいてくる相手にはきつく当たって、自分が傷つく前に遠ざけようとする。


シュレック、フィオナ、ファークアード。
三人とも独りよがりで、ある一面では自分のことしか考えていない。



わたしたちも「当たり前」に囚われている

人間をアイテム扱いしてる!とびっくりしたけど、フィオナってそんな嫌な感じはしないんですよね、ファークアードと違って。

自分を助けたのがオーガだと知り、落胆した次の日は、シュレックとドンキーに対して、昨日の失礼な態度を謝りたいと言っているし。心根の優しい女性なんだと思います。

なんでフィオナに対して不快感を抱かないのか考えたんですが、登場人物と同じく、わたしたちも「絵本で読んだ当たり前」に囚われているからなのでは、と思いました。


お姫様が閉じ込められていること、騎士や王子に助けられること、キスで眠りから覚めることなどなど。童話のお約束として、フィオナと同じように、疑問を持たずに受け入れています。

でも実際はこのお約束って結構謎じゃないですか? フィオナの幽閉の理由なんてフワッとしてるし、例えば眠れる森の美女なんかだと、本人の同意なしにキスするなんて変態だし…。
改めて考えると、「当たり前」って首を傾げてしまうものも多い。
 


他者と違うのは恥ずべきことではない

世の中のことに疑問を抱かず、「そういうもの」として処理してしまうと、反骨心や心のみずみずしさを失っていくのかも…と思ったのは、おとぎ話の住人たちの変化を見たからというのも大きいかもしれません。

物語冒頭、ファークアードに追放された住人は、「自分達には立ち向かう力がない」「大きくて怖い君ならできる」とシュレックに助けを求めます。


このおとぎ話の住人たちは、とにかく受け身。

この後、シュレックが沼を取り戻したため、今度は埋立地に追放されるのですが、その時もピノキオは「あのオーガが答えじゃなかったのかも」「これが全部おさまるまで、落ちぶれたまま耐えるしかない、おとぎ話のキャラってそういうもんだろう」と一度は自分達の境遇を受け入れようとします。


ピノキオはジンジャーブレッドマンの鼓舞で、自分が人間の男の子ではなく木でできた人形だと認めます。そして「自分達は人間から見たら変人かもしれないが、この個性を武器に生きていく」と誓い、ファークーアードの城に乗り込みます。



絵本も変わるべき時

このミュージカルでわたしが一番グッときたのは、母熊のセリフです。

ファークアードが治めるデュロックの民に向けて、ピノキオが「お前たちのリーダーは小人だ!」と言った後、母熊は「もちろん小人だってなんの問題もないのよ」というシーンがあります。

ピノキオのセリフだけだと、差別の再生産にしかならないんですよね。ファークアードがおとぎ話の住人を追放したのと同じ、「変人だから糾弾する」と同じ構造になってしまう。

ですが、そこに母熊のセリフが入ることで、「ファークアードも自分達と変わらない」「同じような一人の『変人』だ」という意味になる。
今まで「与えられた物語の住人」として生きてきた彼らが、自分の意志を持って踏み出したこのシーンは、いつもグッときました。



そして踏み出したのはシュレックもです。
結婚式を中止させるべく乗り込んだ彼は、「お望みのハンサムな王子じゃない、プリンセスとオーガじゃ釣り合わない」と言いながらも「でも絵本も変わるべきだ」と続けます。
今まで「オーガだから」と壁を作り閉じこもっていたシュレックが、美しい世界を受け入れるこのシーンも落涙しました。

 
 
 

他者に与えられた役割から脱却して、皆が新しい自分を掴み取る話

シュレック・ザ・ミュージカル カーテンコール写真

カーテンコールは撮影OK
この話は、登場人物それぞれが自分の意志を持ち、他者から与えられた役割(あるいは呪い)から脱却し、新しい自分を掴み取る話だと思いました。
シュレックしかり、フィオナしかり。おとぎ話の住人たちもです。
だからこそ、カーテンコールでシュレックが「次はきみの番だ!」というセリフがまた泣けました…。いい話だな…
こういう直球でエンパワメントしてくれる話ってなかなかないので、ストーリーのピュアさに、結構べそべそ泣いてました。
トライアウト公演は中止もあったので、今回完走できたのもうれしかったです。
 
 
 

それぞれの感想

シュレック(spi)
マスクめちゃくちゃ大変そう…。一番印象的だったのは、手にはめたグローブの隙間から汗の滴が飛び散っていたところです。そ、そんなにもそこに汗をかくの!?と仰天しました。
暑いだけじゃなく、表情がほぼ見えないため大変だったらしいのですが、その大変さを感じさせないくらい、そこに自然にシュレックがいる演技だと感じました。

 

・フィオナ(福田えり)
助け出された事実に興奮するシーンがめちゃくちゃオタクっぽくて毎回笑ってました。なんか笑い方がグフグフしてて…笑
ちょっとクセがあるけど、素直で優しくユーモアがあるフィオナだったなと思います。福田さんじゃなかったら、フィオナにこんなに好感を持ってなかったかも。

 
・ドンキー(吉田純也)
実はキャラクターの中でドンキーが一番好きかもしれない。ドラゴンに対して「ボディタッチが多すぎるよ、まだそこまで許してない」とはっきりNOを伝えられるし、内側に籠るシュレックに対して、怯まず踏み込んで真っ直ぐ話ができるし…。この話の中で一番大人なんじゃないか!?
壁を作ろうとするシュレックと話すシーンで、お互いを友達として認識するところがすごく好きです。
ドンキー、なんで友達いなかったんだろうなー、こんなにいいロバなのに…喋るロバっていうのがダメだったんだろうか。
いろんなシーンで細やかに表情を変えて演技をしていたのと、カテコで尻尾をぶん回していたのが印象的でした。
 
・ファークアード卿(泉見洋平)
感じが悪いにも関わらず、コミカルで憎みきれないファークアード。膝立ちの演技に気を取られがちだけど、顔と指の演技が好きでした。なんか…いやらしいんですよね、表情とか、指の動きとかが!!
見てわかる通り、ファークアードって小人なんですけど、これって素直に笑っていいのかな…と初めはちょっと戸惑いました。実際に低身長のまま成長が止まる病気もあるわけだし。
なのですが、見ているうちに「低身長だから面白い」のではなく、コミカルな演技だから笑ってしまう、というように感じ方がシフトしました。泉見さんの演技があってこそなのだろうなと思います。
 
 
 

トライアウト公演で気になっていたこと

実はトライアウト公演で少し気になっていたのが、結婚式での神父の喋り方です。トライアウト公演では、日本語に不慣れな外国人のようなカタコトの喋り方だったんですよね。

 

フルバージョンではカタコトがちょっと変わったイントネーションに変更になっており、進化している…と思いました。
こういう小さいことでも、発信する側の姿勢が見えるものなんだなと思い、信頼感が高まりました。この作品に携わった人たちの違う舞台、また観てみたいなー。
 
 

 

 
その他
 

白ねずみちゃんたちかわいい。好きです。

 

母熊はドラゴンと兼役。

 

 

 

ドラゴン、前列で見るとすごい迫力だった。テーマパークに来たみたいな感覚。
ドラゴンの歌もいいんだよな〜!「プリンセスじゃない、美女じゃない、誰からも求められない」って真っ直ぐ歌えるのって「強さ」を感じる。

 

 

 

長くなりましたが感想はそんな感じです。

上演情報(動画、メディア記事)などのまとめはこちら↓

 

 
 
 
 




*1:文化庁子供文化芸術活動支援事業」対象作品になっているため

それは『大丈夫』ではない 〜ファーストテイク朗読劇「ナイスコンプレックス」〜

ファーストテイク朗読劇_ナイスコンプレックス感想_ヘッダー

 

 

 

ファーストテイク朗読劇「ナイスコンプレックス」を観てきました。

これは2006年に実際に起きた事件と、脚本のキムラ真さんの半生を併せて作られた(6/3マチネ、カテコでのキャストの発言より)お話です。

キムラ真さん演出は「止まれない12人」「チャージマン研」を観たことがあるのですが、脚本をされている作品は初めて。

 

ファーストテイク朗読劇というのは

『「一発真剣勝負で、演劇と向き合う」がコンセプト。

上手く見せるに飽きた人にぴったりの偶然から生まれる新鮮劇。

余計な演出を一切排除し、役者が脚本から受けたインパクトをそのままお届けします。』

とのことだったので、観客としても前情報を入れない方が良いだろう…と思い、当日にのぞみました。

ファーストテイク朗読劇についてはまた後述します。

 

 

 

以下感想です。(ネタバレあり)

片親ながら立派に息子・健介を育て上げた母親と、演劇の道を志し邁進する健介。

劇団の仲間や恋人にも恵まれ、演劇のコンクールでグランプリも受賞。すべてが良い方向に動き出した頃、母親の認知症が発覚。

介護に追い詰められるも人に頼ることができず、周囲と摩擦を起こしてしまう健介。彼の変化に気づいた恋人の真紀さえも遠ざけてしまった健介が取った行動とは…

 

あらすじはこんな感じ。

 

推しが演じた主人公・健介はちょっとぶっきらぼうなところがある口数が少ない男でした。後日配信で別キャストの公演も観たのですが、もう少し明るい健介もいました。(同じ脚本なのにこうも解釈が違うのか…とびっくり。役者ってすごい…)

 

今までいろんな役を演じる推しを観てきたけど、こういう終始低めの発声でいつもちょっとだるそう…という切り口ってあんまりなかった気がします。

推しは186センチとかなり大柄なのですが、ビジュアルの時点で勝利が約束されている…と思いました。体格に恵まれた成人男性が見せるやさしさや隙、弱い部分って、見た目とのギャップでぐっと引き込まれる

 

 

 

冒頭で書いた通り、この話は2006年に実際に起こった事件が元になっています。

その事件というのは「京都伏見介護殺人事件

母親の介護のために離職し生活苦に陥った息子が、母親と無理心中をはかった事件です(母親は死亡、息子は一命を取り留めました)

Aは最後の親孝行にとその日の夜から車椅子の母親を連れて京都市内を観光し、2月1日早朝、家に帰りたがった母親に「もう生きられへんのやで。ここで終わりやで。」と言うと、母親は「そうか、あかんか。一緒やで。」と答えた。Aが「すまんな、すまんな。」と謝ると、母親は「こっち来い、わしの子や。わしがやったる。」と言った。この言葉を聞いて、Aは殺害を決意した。
wikipediaより引用。なお、劇中では居住地が北海道に変更されている)

 

この部分は、聞いたことがある人も多いかと思います。

 

事実だけでもかなりしんどいのですが、劇独自の設定として、健介が他人に頼れない理由が母親にあるところが最高にしんどい。

「他人に迷惑をかけては絶対だめ」
「お金を借りてはいけない」
「お金を借りるくらいなら自分の生活を切り詰めなさい」

 

健介は母親のこの言葉を愚直に守り続け、追い詰められていきます。

必死に働き息子の健介を育てた母親の覚悟。それが呪いのように健介を縛り、誰にも頼ることができなかったのは悲劇でしかない。(実際の事件では、その発言は病死した父のものだったそうです)

 

 

推しは台詞がないシーンでも演技をすることが多く、台詞がない時に客席に見せるリアクションや、くしゃっとした笑顔があたたかくて、母親や劇団の仲間が好きなんだとすごく伝わってくるんですね。

在学中から築き上げてきた劇団の相棒との関係に軋轢が生じるも、「ここだけは変わんないで欲しいなあ」とひとりごちるシーンや、自ら恋人を遠ざけようとする姿は、見ていて非常につらかったです。

 

 

一番つらいのは、終盤の母とのやりとり。

些細なことで「昔に戻ってしまう」認知症の母。

普通に会話ができていたと思いきや、突然「十数年前に戻り」、息子が眠っているから静かにしろと言い出したり、健介が作った食事を自分が作ったと思いこみ勧めてきたり。

おむつに粗相をしてしまい「自分は早く死んだ方がいい」と泣き出す母を叱責する健介の声がきっかけで、目の前にいるのが誰だかわからなくなったり…

 

感情を抑えるように胸元に手を当て、自分が誰かわからなくなった母に「(おむつを替えるから)お風呂場、行きましょうね」と絞り出すようにゆっくりと言う健介。母を見送った後、やりきれずその場にしゃがみ込み嗚咽し椅子を殴りつける姿に、涙が止まらなくなりました。

 

 

 

稽古をせず本番に臨むファーストテイク朗読劇は、通常本番では見られない、役者同士が初めて繋がった瞬間に見られるものを届けられると、キムラ真さんは言っていました。

曰く「お客さんが普段観ているのは、いろいろな過程を経て届けられた牛乳。ファーストテイク朗読劇は搾りたてで雑味もあるけれど、その瞬間しか飲めない『本当』のもの」とのこと*1(6月2日スナックキムラなどでも詳しく語られています)。

推しも「台本をあえて読み込まないようにしていた」と言っていました。

だからこそ、役に入り込み、感情が乗った数々のシーンが非常に生々しい。

大きな手で顔を覆ったり、涙を袖で拭ったり、首まで真っ赤にし、泣きながら掠れた声で「どうして」とつぶやく姿に、何度も苦しくなりました。

 

 

『大丈夫』は大丈夫ではない

劇団ナイスコンプレックスのサイトにこんな文言があります。

作・演出をキムラ真が担当し、社会テーマ・実際にあった事件をモチーフに、「考えてもらう」ではなく「知ってもらう」をコンセプトとする。 

劇場のみで完結するのではなく、観客の脳髄に作品の一瞬を焼き付け残し、フラッシュバックさせる作品創りをしている。

 

今回の朗読劇「ナイスコンプレックス」は、一体何を「知ってもらう」ための話か考えた時、劇中に度々登場する「大丈夫」という台詞が思い出されます。

 

まずは母親が健介の恋人・真紀に伝える「大丈夫」
「あのね、健介が大丈夫って言ってる時は大丈夫じゃない時だから。その時は優しくしてあげてください。内緒ね、あの子怒るから」

 

劇団の後輩、港俊太が弁護士・棟木に伝える「大丈夫」
「誰かが大丈夫って言ってたら、それは多分大丈夫じゃないから。大丈夫ってのは自分に言ってんだよね。まだ頑張れる、まだできるって」

 

 

主人公・健介は周囲のいろんな人から「大丈夫?」と尋ねられるたび、「大丈夫」と答えます。そして一人で認知症の母を抱え込んでしまう。

母親から健介のことを聞かされていた恋人の真紀ですら、その「大丈夫」に健介との壁を感じ、伸ばしていた手を離してしまう。

 

この朗読劇は、事件の悲惨さと、「大丈夫」と強がる人の手を離さない大切さを知ってもらうための作品なのではないかと思いました。

 

 

余談

キャストは全員トップスが白いシャツ、ボトムスを黒に揃えていたのすが、推しはそこにシルバーのネックレスとブレスレットをしていました。それがまた主人公の造形に立体感と奥行きを加えていたように思います。無骨でぶっきらぼうだけど、朴訥としているわけではなく、ちょっと色気がある感じ。あえてアクセサリーを付けていたのかは分かりませんが、個人的には健介の人となりがわかる感じで好みでした。

 

演劇って、普段大人が抑えているいろんな感情を舞台上で見せてくれる側面もあると思ってるんですが、今回の推しの演技は本当に胸にくるものがありました。

やっぱり大きい人がぐしゃぐしゃに泣くのは反則だって!!!こっちも泣いちゃう!!!!

 

 

朗読劇がきっかけで、実際の事件についても調べました。かなり詳細に実際の事件をなぞっている部分と、キムラ真さんの半生を描いているであろう部分をときほぐしていく過程が面白かったです(この言い方はなんだか微妙ですが…)。

 

 

今回のspiさんの朗読劇出演は偶然から生まれたとのこと(詳しくは配信「6月2日スナックキムラ」で)。推しのまた違う一面を観られて良かったです。偶然に感謝!!

ファーストテイク朗読劇という特殊な試みなので難しいかもしれませんが、できるなら円盤化してほしいな

 

 

配信は6月30日まで。一度購入したら期限まで何度でも再生可能なので、もし気になった方は観てみてください。(6月18日現在、配信6本+台本が入手できるお得なコンプリートセットもまだ購入できるようです)

 

 

▼マシュマロ

気軽にどうぞ。だいたいTwitterで答えてます。

回答スタンスは「丁寧なものには丁寧に、無礼なものにはそれ相応に」

 

 

▼spiさん関連

 

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*1:6月3日マチネカーテンコールより

笑いっぱなしの2時間10分〜信長の野暮(2023)〜

アナログスイッチ信長の野暮_舞台セット

 

 

 



信長の野暮は2013年、2018年に上演され、今回が3回目の公演となる舞台です。
本能寺で自刃直前の信長が、冴えない芸人・田中の部屋にタイムスリップ。その他の武将らも魂だけが現代にやってきて…!?というコメディ。


舞台のDVDは購入したら満足してしまい、見返すことがあまりないわたしですが、信長の野暮のDVDはときどき再生しています。重たい話は見る前に少し身構えてしまうけど、コメディだと手が出しやすいので良い。

わたしはspiさんが主演の2018年版を以前観ています。2023年も信長役はspiさんが続投。今回の公演は、2018年の千秋楽後、作・演出の佐藤慎哉さんがspiさんと「また一緒にやりましょう」と約束をして実現したそうです(詳しくはパンフレットに書かれています)


好きな作品の再再演なのでうれしい〜!しかも場所が吉祥寺という自分の好きな街での上演。肩の力を抜いて楽しむことができました。
自分にしてはめずらしく他担の友達を誘って観に行った舞台なので、街の風景と共に、より心に残りました。


 



あらすじ

明智光秀によって本能寺に追い詰められた織田信長
「これが最期」と覚悟を決めて目を閉じる。
が、ふと気がつくと冴えないワンルームでひとり
ゲームに明け暮れる田中の隣にタイムスリップしていた…!

偶然にも現代へと時空を超越してしまった戦国武将と、
彼らと共に生活することになった住人たち。
合わないのは時代のせい?個性のせい?
数多の混乱を面白おかしく描く、
空前絶後のシュチュエーションコメディ!

2013年、2018年と上演され好評を博し、
2023年5月アナログスイッチオリジナル企画として
バージョンアップして帰ってきます!



▼イケメン図鑑のゲネプロ画像付きのあらすじ

ikemen-zukan.com




感想

すごくおもしろかったー!
再演ってストーリーが同じだから、予定調和かもなーとちょっぴり思ってたんだけど(すみません)、新キャラがいたり伏線の張り方が丁寧になっていたりですごく楽しめました。「あれ、これさっき聞いたな!?」というワードが後で回収されていく小気味良さよ。

何がおもしろいかって、とにかくテンポがいいんですよね。セリフの掛け合いが耳に心地よい。
突如として明智光秀の魂が宿った太田と、その彼女のアンジャッシュ状態で進む会話も秀逸。
特に好きなのは森兄弟の「御意」「プレイとは」の唱和、何回見てもおもしろくて笑っちゃう。
最後のドタバタの勢いも好き。


たっぷり笑って最後少しだけほろりとさせるストーリーで、終演後はちょっと心が明るくなる舞台でした。元気になれる〜!暗いニュースも多い昨今だから、こういう思い切り笑える舞台っていいなと改めて思う。

何度か観劇するうちにそれぞれの役に感情移入して、自分の友達みたいな気分になりました。なのでそれぞれの感想を(あえて役名で)


田中

今回は俳優じゃなくて芸人の田中。ゲームしながら「光秀だと!?是非もなし」と口パクでニヤニヤするところが微笑ましくて、見てるこっちも笑ってしまう。掃除機をのぶちんにぶつけるところのやりとりも好き。
お笑いのコンビだとやっぱりツッコミなのかな。「お前がそれ言うのおかしいだろ」「お前の家臣それで死んでるぞ」とか、いろんなところで突っ込んでるしな。 


明智光秀・太田裕也

公演を重ねるにつれ、浮気がバレたときの演技が大きくなっていっておもしろかったー!ラストのドタバタのシーンでくるっと回転するところが好き。太田裕也の時は割とふにゃっとした今時の若者って感じで、光秀との違いも楽しかったです。


山口天衣(あい)

かわいい。クール系と思いきや突如信長の真似をし始めたり、駄洒落を言ったりするギャップが好き。特に好きなのは「でも私、細い方が好きやで」のセリフ。会社の後輩(クールビューティー)にため口でこんなこと言われたら、55歳のおじさんじゃなくてもドキッとしちゃう。好きです。


長谷川晴海

「ちょっとズレたところがある痛い子」感があって、隣の部屋を覗くというおかしな行動がしっくりくるのがすごい。浮気されちゃうのは多分感情の起伏が激しいからだな…!? ライトが当たってない時の演技(田中に肩を叩かれてビクッとするところ)も細やかで好きです。


橋本勇次

存在がおもしろいってすごい。「おうみ…?近江…滋賀の!」「天衣がぁ、芸人の俺の方がぁ、好きって言ったからー」とか、声の出し方で笑ってしまう。天衣ちゃんに追い出される時にシャイニングみたいになってるところとか、「あぁっ、靴…」って情けない声を出すところも好き。iPod shuffleをプレゼントされてるということは、天衣ちゃんとは結構長い付き合いだったのだろうか…


武田さやか・赤影馬の芯

「こんないい人いる!?何も誇るものがないのに堂々とできる人!」はずるい。馬の芯は真面目で仕事ができる子なんだろうなと感じる、結構すぐに現代に適応してるし。徹を思い切り振り払うところが好き。多分ウォシュレットの水圧は最強にしてある。


武田信介

徹との絡みがおもしろくて好きー!椅子を下げるタイミングが毎回絶妙。こんな抑圧された環境で捻くれずに育っててえらいね…。今回の再再演だとタイムマシンを作った経緯も明らかになってすっきり。


藤沢徹

存在がおもしろいってすごい(二回目)。その場にいるだけで「何か面白いことをしてくれそう」という期待感がある。余談ですが、さやかとの「持ってる」の仕草は、2018年から仲間内で流行って会話内でしばしば登場します。汎用性が高い。


森兄弟

いやーーーー、かわいい。三人の息がぴったりで、見ててにこにこしちゃう。力丸、ハートの便箋の折り方どこで覚えたのまじで。懐かしくてめちゃくちゃ笑ってしまった、高校生じゃん!!蘭丸と力丸の「ねーー!」にキレる坊丸が苦労人という感じで味わい深い。


武田夫妻

「娘さんと結婚…」「だめだ」の切れ味の良さよ。徹のパチプロ発言に二人で顔を見合わせるところの表情と間が絶妙で毎回笑ってた。好き。
この話って、お父さんが高圧的で唯一嫌なキャラとして出てくるんだけど、ラストのタイムスリップの可愛らしさと元に戻ってからの様子でその印象が変わるのが良かった…。そのおかげで読後感(?)がすっきりしてる。


織田信長

初めの堂々とした武士としての信長、語尾に「ござる」が出たりして現代になかなか適応できない信長、野望を見失い堕落した信長。同じ人物なのに雰囲気が違う姿が見られるので一粒で3回おいしい

武士としての信長の好きなところは、タイムスリップしてすぐの部屋の中で(この面妖なものはなんだ…?)というように短刀の柄で扇風機をちょんとつつくところ。戦国時代で一番有名でしょと言われて照れるところ。「ニッ…ポン」の発音。ニヤリと笑って「チャリで行くぞ」と両手を広げるところ。照明が当たってないシーンでシルエットで見えた横顔のラインの美しさ。

なかなか適応できない信長で好きなところは、田中と言い争いしてる時にしてる背伸び。森兄弟が田中に畏れながら申し上げます!してる時の「そうだそうだ!」と言わんばかりの変顔。バイト合格のメチャクチャな喜びのダンス。


堕落した信長で好きなところは…あるかな…。感じが悪いからなー!
自堕落に過ごす信長の演技を見るたびに心がひゅっとしてしまう。躊躇いなく相手に苛立ちをぶつける演技がうますぎる…嘘くささがなくて生々しいから怖いんだよね。
序盤の姿との落差が激しい堕落した信長は、史実の冷徹な姿から来ているのかなー。
わたしはspiさんのクズの演技が(怖いけど)好きなので、毎回感じ悪い!!と思いながら観てました。彼が演じるクズ要素がある役って、本気で憎めるからすごいなと思う。


というかspiさんてクズの役が多いな。ニックは浮気してるのになぜか被害者ヅラしてるクズだし、オキソは自意識を拗らせためんどくさいクズだし、デイビーは差別主義者だし、ビル・サイクスとカーティスも世間から見たら多分クズだし…(だがビルとカーティスはある意味真っ直ぐなので、わたしの中ではあんまり憎むべきクズではない)


spiさんて闇属性の役を演じることが多いんだけど、光属性の役も見たいなー、止まれない12人の朝倉くんとか、H12の哲人くんみたいな、ふにゃっとした光属性の役…。Tシャツのサイズが3Lだからそういう役が来ないのか!?

 


閑話休題

信長のワードローブは徐々に増えていくんだけど、これは田中が買い与えたものなのかしら。途中からジャケット着たりしてるし、靴は多分サイズが田中とは違うし。
いきなり現れた様子がおかしいおっさんに服を買うあるいは貸与する田中っていい奴だな…。
余談ですが、現代に適応した信長が着るハーフパンツに点々と汚れがついてるのが、「わ、わかるーー!」と思ってしまった。くたびれ加減がリアルだった。衣装さん天才だな…。



舞台美術など

前回もおしゃれだったけど、今回はよりブラッシュアップされてるなーと感じました。
田中と太田の部屋の雰囲気の違いが出てるので見てて楽しい。田中の部屋は水道修理のマグネットが玄関にたくさん貼り付けられてたり、捨ててないゴミ袋や傘があって雑然としてる。

信長の野暮_雑然とした田中の部屋

雑然とした田中の部屋。ジャンプの表紙にアナログスイッチが!芸が細かい!


太田はカメラ好きのサブカル男子という感じ。ダーツや間接照明、空気清浄機、見せる収納の靴、観葉植物とか。くまのぬいぐるみは女絡みの持ち物っぽくて、部屋を見るだけでどんな人物が住んでるか想像できるのがすごい。

信長の野暮_太田のサブカルおしゃれ部屋

サブカルおしゃれボーイ太田の部屋


屋根にはネズミの家族やネコチャンがいたり、中央の瓦の中にASの文字があったり、謎に「ユカリ」さんを推してたり(信介の部屋と太田の部屋の本棚) して、見ていて楽しかったです。

信長の野暮_謎の文字

ユカリ、紫、ゆかり

信長の野暮_謎の文字

ここにもユカリの文字が…!

 

グッズもおしゃれ

信長の野暮_グッズ

グッズの一部。デザインが秀逸!

あと、特筆すべきはグッズのデザインがめちゃくちゃおしゃれなところ!パンフやDMの蛍光インクが映えてる。アクスタあるのもうれしいー!オタクはアクスタ大好きだもんね。

 

これは早速アクスタで遊んだ図

大歓楽街・吉祥寺を満喫できました。他にも寿司食べたり焼き鳥食べたりした。

 

 




何も考えずに笑って観られる楽しい舞台「信長の野暮」、

東京公演は終わりましたが、5/26〜5/28まで大阪公演もあります。チケット代は驚きの5,000円!

配信も6月3日16時まで何度でも観られて4,500円と福利厚生が行き届いてます。おすすめ!


 
 
楽しかったので1年ぶりにブログ書いた。
今気づいたけどタイトルがイケメン図鑑と被ってるな…初出はわたしの方が先なので目をつぶってほしい。
ミュージカル「手紙」の時みたいにまとめ記事もUPしてます。

 

こっちはtogetterまとめ。

主にアナログスイッチとキャストのツイートをまとめてます。まだ色々抜け漏れがあるのでどうにかしたい。
 
 
 
 
それではみなさま、良き推し事ライフを!
 
 
 
 
 
 
▼spiさん▼

 

 
 

▼おすすめ双眼鏡など▼

 

 
 
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回答スタンスは「丁寧なものには丁寧に、無礼なものにはそれ相応に」

 

 
 

成長と解放〜ミュージカル手紙2022〜

ミュージカル手紙2022_感想ブログ

 

2022年3月12日、ミュージカル手紙の再々演の幕が上がりました。現時点での感想です。ネタバレあり。

 

あらすじ(公式サイトより)

弟の進学費用のために空き巣に入り、強盗殺人を犯してしまった兄・武島剛志。高校生の弟・直貴は唯一の肉親である兄が刑務所に15年間服役することになり、突然孤独になってしまう。兄が殺人を犯した事実はすぐに広まり、加害者家族となった直樹に向けられる周囲の目は一変した。高校卒業を控えたある日、直貴の元に服役中の兄から1通の手紙が届いた。それから月に一度、欠かさず手紙が届くようになる。兄からの手紙には獄中での穏やかな生活が書かれている一方、直貴は「強盗殺人犯の弟」という肩書により、バンド・恋愛・就職と次々に夢を奪われ苦しみ続けていた。年月が経ち家族を持った直貴は、ある出来事をきっかけに、ついに大きな決断をするのだった。

 

 

 

 

以下、感想です。

 

藤田俊太郎さんとspiさんが関わる舞台なので、おもしろくないわけがないと思っていたのですが、やはり今回も好きな舞台でした。藤田さんの演出は、心のひだの表現が巧みで登場人物に厚みがある印象があります。

 

 

 

手紙は感動作なのか? 

観劇の前に久しぶりに原作を読みましたが、以前読んだ時と変わらず、やはり胸くそ悪い読後感でした(主人公・直貴に「犯罪加害者の家族は差別されて当然」というような台詞が投げかけられたりする)。
わたしたちは「差別はいけない」と教えられて生きています。だけどこの小説はその「当たり前」と正反対のことを登場人物に言わせている。

何がこんなに胸くそ悪いかって、この作品が描いているのがおそらく真実だからなんですよね。

主人公・直貴に焦点を当てて進められるこの物語、わたしたちは彼の視点で世界を見がちです。だから「世間から差別を受けるのは当然」という平野の言葉に引っ掛かりを覚える。
こんなに努力をしているのに、こんなに苦労をしているのに、「犯罪者の家族」というだけでいわれのない差別を受けるのはなぜなのか。なぜそれを受け入れなければならないのか。

 

でも、自分の周囲に犯罪者の家族がいたとしたら?

 

わたしが真っ先に思い浮かべたのは1980年代に不良グループが起こしたある有名な殺人事件でした。もし、加害者家族が自分の生活圏内にいたら? …そう考えると、普通に接するのは無理かもしれない、差別する側に回るかもしれない…と思い、そう考えた自分に暗い気持ちになりました。

 

わたしはこのミュージカルで泣きましたが、これを感動作として消費するのは違う気がする。デトックスのために作品を消費するのではなく、己と向き合うために物語と対峙したいと思いました(あくまでも個人の意見です)

 

 

貧困からくる無知と不幸

「この話の登場人物は無知が多い」
映画版を見た友人の感想に、貧困ってそういうことだよな…と思いました。特に、両親を亡くした武島兄弟は、良くも悪くも「ふたりきり」で生きてきたのだろうと思います。

あらゆることは知識や情報にアクセスできるか否かで決まる部分があります。兄・剛志にもう少し誰かと繋がりがあれば、身体のケアの方法がわかり、腰を傷めずに済んだかもしれない。会社をクビになった時、税金や家賃の減免の方法を教えてくれる人がいれば金銭的に困窮せず、罪を犯さずに済んだかもしれない。

無知故の想像力のなさが彼を犯罪へと向かわせたと考えると切ない。

でも「ふたりきり」で生きている彼らには、頼れる人がいない。そもそも「人に頼る」という発想自体がない。

 

 

生きることは他者とのつながりの糸を増やすこと

劇中の後半に「人とのつながりの糸を増やす」というような台詞が出てきます。彼ら兄弟は生きることに精一杯で、自分と兄、自分と弟以外のつながりの糸を増やせないまま年齢を重ねたのだと感じました。

そう考えると、この話って兄弟の成長の物語でもあるんですよね。そしてそれはM23「最後の手紙」の直貴のパート「手紙は俺を育てたんだ」にもつながります。

 

 

剛志の幼さとその演技

藤田さんの演出の他作品だと、Take Me Outのどこか鼻持ちならない野球選手、デイビー・バトル。ジャージー・ボーイズでは自己顕示欲が強いがそれをあまり表に出さないニック・マッシ。娘への愛をうまく伝えられないVIOLETの「父親」役を演じていたspiさんですが、今回は弟の進学費用のために強盗殺人を犯してしまう「あまり頭の良くない」兄、剛志を演じています。

 

わたしはspiさんの弱さや幼さ(人間としての未熟さ)を見る人に感じさせる演技がとても好きです。繊細なのにどことなく無遠慮かつ傲慢なにおいがする感じ。剛志もそうだし、ニックもそう。加害側なのに、被害者みたいな顔をしているときの演技。

「謝罪しているが心の底ではどこか納得できていない感じの謝罪」、あるいは「本人は悪いと思ってるけれど思慮が浅く、『そういうことじゃない』と思う謝罪」の演技が本当に上手い…と思っています。(個人の意見です)

今作もそれが遺憾なく発揮されていました。

 

罪を犯した冒頭から、剛志は被害者の緒方さんやその家族に繰り返し謝罪をしています。また、自分のせいで大学進学ができなくなった弟・直貴にも、自分の行動を謝っています。…なのですが、どこか独りよがりなんですよね、その謝罪が。

悪いことをした、緒方さんに墓参りを、自分なんて生まれてこなければ…と言ってるけど、根本的に「わかっていない」し、思索ができていない。
先に述べた無知ともつながりますが、想像力がとぼしい。
最初(で最後)の面会に訪れた直貴に対して、大学に行かせてやりたかったと話す場面はぶっきらぼうで、どこかふてくされたようにも見えます。

 

 

3/27追記
spiさんは公演途中で微妙に演技を変えてくる印象が強いのですが、やっぱり演技が変わってました

追記終わり

 


物語後半。剛志は直貴から送られてきた手紙で、自分の犯した罪の重さに改めて気づきます。そこからの「甘えの消えた心の底からの謝罪」との違いがまた味わい深い…。

抑え目のトーンで歌い始めるM23「最後の手紙」だったり、慰問コンサートのステージに上がった直貴の言葉に、時間が止まったように静止する姿だったり(まばたきをせずにじっと固まっている)。

 

演出の藤田俊太郎さんは、以前spiさんについて「“聖と俗”、“透明と濁り”が同居したような方」とおっしゃっているのですが*1、今作でもそれを感じました。

 

主人公たちの成長と事件からの解放

幼さを抱えているのは剛志だけではありません。直貴と由実子は「逃げたくない」「正々堂々」という真っ直ぐさを握りしめ、視野が狭くなっている。
そんな彼らに新しい視点を与えるのが直貴の勤務先の社長・平野です。

 

「逃げずに正直に生きていれば、差別されながらも道は拓けてくる━━君達夫婦はそう考えたんだろうね。若者らしい考えだ。しかしそれはやはり甘えだ。(中略)それで無事に人と人との付き合いが生じたとしよう。心理的に負担が大きいのはどちらだと思うかね。君たちのほうか、周りの人間か」


この台詞を原作で読んだ時、ぎくりとしたのを覚えています。
自分の信念を貫くために、視野が狭くなっていないか。まっすぐ生きるために、何かを犠牲にしていないか。本当に大事なものは何か。
そんなことを考えました。

 

「差別はね、当然なんだよ」
「我々のことを憎むのは筋違い」
「我々は君のことを差別しなきゃならないんだ」

この台詞も先の言葉を聞いてからだと聞こえ方が変わってきます。

 

文庫版の解説にもありますが、この作品は観客にも彼らのぶつかった問いを投げかける作品なのだと感じました。

 

「彼(剛志)にとって手紙は般若心経」と染谷 洸太さん演じる遺族・忠夫の台詞があるのですが、最後の手紙を書き終えた剛志、それを受け取った忠夫、緒方家を訪れた直貴の三人が歌うM23では、彼らの解放が描かれているように思います。

 

 

原作よりもソフトな印象の舞台版

わたしは原作を読み、ミュージカルを数回見てこの文章を書き、少しずつ作品の見え方が変わってきました。
特に、歌が加わることで見え方が変わったのは由実子です。

原作の由実子は、ちょっとびっくりするくらいの押しの強さが印象的です*2。バスの中で一緒になる直貴に一方的にりんごや手編みの手袋を渡す、はっきりと拒絶をされてもあきらめない。

自分の経験を直貴に重ね、「それ、逃げてるんやないの?」と言い、剛志のことが知れ渡り娘の実紀が仲間外れにされた時も「どんなことがあっても、これからはもう逃げないで生きていこうって決めたやないの」と直貴に伝える由実子。

 

ミュージカルで由実子を演じる三浦透子さんの歌声は、透き通ってきらきらしていて、ひたむきな女性という印象が追加されました。(声の印象ってすごい…)

 

 

そのほかにも、絶縁すると宣言した直貴が由実子が出す手紙を許したり、imaginを弾く直貴とそれを見つめる剛志のシーンが追加されるなど、舞台版は色々な場面でわかりやすく、ソフトな印象になっていると感じました。

 

「手紙」は決して暗いだけではなく、希望や明るさが描かれた作品だと今では思います。

 

 

まとめ

これは迷いながら生きる登場人物たちが、時間の流れの中で自ら事件に終止符を打つまでの葛藤と成長を描いた作品だと感じました。

 

他のキャストの感想などにも触れたいのですが、今日のところはこの辺で。まだ観劇予定なので続きも書くかもしれません。

 


チケットはまだ各種プレイガイドで買えます。

ぴあ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2192144

イープラス
https://w1.onlineticket.jp/sf/tkt10/detail/1712700001?P6=715&P1=0005&P10=10&P59=1

ローチケ
ミュージカル「手紙」2022|演劇のチケット ローチケ[ローソンチケット]

 

 

パンフに織り込まれているソングブックには曲の歌詞が。何度も読み返せてうれしい。

 

ミュージカル手紙2022_感想ブログ

観劇前に作ったミニフラスタ改めボックスフラワー。あらすじを知らない友人に「何でその新聞使ったの!?」と言われました(使ったというか新聞も作ってる)

 

 

▼藤田俊太郎さん演出、Take Me Out2018を観て感じたことなど▼

 

▼おすすめ双眼鏡など▼

 

 

 

 

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回答スタンスは「丁寧なものには丁寧に、無礼なものにはそれ相応に」

 

 

 

*1:Take Me Out 2018パンフレット より

*2:直貴に内緒で勝手に手紙を代筆するのは自他境界が曖昧すぎてちょっと怖い。原作と映画版はどうしてもそこが引っかかってしまった

ミュージカル オリバー感想

 

ミュージカルオリバー感想、考察など

ミュージカルオリバー!
(カテコは撮影可能タイムあり)

 

2021年9月末、ミュージカルオリバー! の上演が始まりました*1

 

プレビュー公演のキャストスケジュールが発表されないままチケットの抽選が始まったり、プレビュー公演が始まったのに本公演初日のキャストスケジュールが発表されなかったり…と、オタク的にハラハラすることもありましたが、無事に開幕。数公演観劇した時点の覚書きです。ネタバレあり。

 

 

公式サイト

 

 

▼上記よりあらすじ引用▼

物語の舞台はヴィクトリア朝イングランド

救貧院で食に満たされることのない暮らしを続けていた孤児のオリバーは、下働きに出された葬儀屋でひどい仕打ちを受ける。

逃げ出したオリバーがたどりついたのはロンドンの街。

彼はそこでフェイギンという老人が元締めを務めるコソ泥とスリの集団に取り込まれる。

スリの濡れ衣を着せられ、捕らえられたオリバーは、その被害者である親切な紳士ブラウンロウ氏に引き取られた。

アジトを知られることを恐れたフェイギンは、冷酷なビル・サイクスと心優しいナンシーを使ってオリバーを力ずくで連れ戻そうとたくらむ。

オリバーは本当の家族の愛を見つけることができるのだろうか―。

 

 

 

大勢でのダンスと歌

ミュージカル オリバー!にはたくさんの楽曲が登場します。


主人公オリバーにとって、これは希望の物語だと思うんですよ。救貧院で生まれ育った彼にはすべてが新しく新鮮で、ロンドンの街並で歌われる『信じてみなよ』『誰が買うのだろう』は、彼が初めてみる色づいた世界を表現した曲だと感じました。

 

大勢の大人と子どもが舞台上でパワフルに歌って踊るシーンは、役者にとってもこの状況下を生きるわたしたち観客にも、希望の象徴だと言えるかもしれません。

 

オリバーとの出会いでギャング団が離散したり死人が出るので、そちらにフォーカスすると暗い。でも演出家が言うように「グッドネス」を描いた(描きたい)作品なのかな

 

 

舞台のセットや小道具がすごい

びっくりしたのが舞台美術。天井まであるセットに、お金かかってるなー!と思いました。全体を通して10パターンくらい?セットがあったんじゃないかな。

 

冒頭の救貧院は1968年のミュージカル映画のセットそっくりの重厚な見た目。天井近くにある格子のはまった窓が割れていたり、丸く拭かれており角が汚れているのがリアル。つまり窓が割れても修理をしない、汚れていても隅まできっちり掃除をしないような環境だとセットからわかります。


ブラウンロウ氏の邸宅は白く洗練された建物が周りに並び、富裕層が住んでいる立地だとわかる。ギャング団の元締めフェイギンのアジトは薄汚れて雑然としている。

 

観客の想像力に委ねて同じセットでストーリーが進行する舞台も好きだけど、ビジュアルで没入させてくるセットもいいなと改めて思いました。

 

ビジュアル繋がりで言うと小道具もそう。救貧院で大人用の料理が運ばれるシーン。
大きな七面鳥やブルブルと揺れるゼリー、熱々なのが分かる湯気が出ているご馳走。とにかく目で見てわかりやすいように作られている。

 

本物の火を使った松明で犯人を探すシーンは、キャストたちが鬼気迫る表情で客席を照らすので、こちらが責められているような気持ちになりました。こんなに血眼になって探されたらそりゃ怖い。

もしかしたら皆ビル・サイクスへ相当の恨みを抱いており、反撃できるチャンスを伺っていたのかも…(切ない)

 

 

 

キャラクターについて

すべての中心・オリバー

舞台に限らず原作小説もそうなのですが、オリバーの行動で物語が進む部分が多い。

この話ってオリバーが何かを成して話が進むんじゃなく、オリバーの登場によって既存コミュニティの均衡が崩れてイベントが起きてるんですよね。まわりの大人や子どもからすると、天使だったり疫病神だったりする。

だからキャストも邪気がない感じの子どもがキャスティングされたのかしら(逆に、邪気がある子役とは?って感じもしますが…)

 

www.youtube.com

キャストのひとり、エバンズ君の「バイバーイ!」がめちゃくちゃかわいい。

 

 

 

小さな紳士ドジャー

この物語ではしばしば登場人物が、貧しいはずの自分達を指し「紳士」「淑女」という言葉を使います。ブリティッシュジョーク??かとも思ったけど、ドジャーだけは本当に紳士になりたかったのかも。

 

ナンシーの「本物の上流階級を見たことがあるの」のセリフに紳士らしく振る舞うところもそうだけど、終盤で帽子を取りに帰るところは紳士の矜恃、紳士のシンボルとしての帽子を大事にしているのかと思いました。

 

余談ですが、ドジャーがナンシーをレディとして扱う『何でもするよ(I'd Do Anything)』で、ナンシーが「ビルと戦う?」と問いかける部分があります。

これ、英語だと「Even fight my Bill?」と言ってて、わー、キツい…。

背伸びをして紳士的に振る舞っても、ナンシーは暴力を振るうビルを「私のビル」と言ってるわけです。つらいなドジャー…(ちなみにBBC版だとナンシーの遺体の第一発見者はドジャー、第二のビル・サイクスのように生きていくのもドジャー)

 

www.youtube.com

 

謎が多いフェイギン

フェイギンの年齢は明らかにされていませんが、ナンシーと15年ほど付き合いがあること、ビルの子ども時代を知っていること、シワだらけの容姿から、結構な歳かと推測できます(その割には老後を心配しているので、えっ!すでにおじいちゃんでは!?と思った。)

読み書きができ、哲学書を持っているので、ある程度の教養がありそう。

自分でも根っからの悪人ではないと言ったりビルの暴力について異を唱える通り、善悪の分別はついているんだと思う。ただし『ポケットからチョチョイと』で歌うように、スリは悪いことではないと思ってそう。

可愛げがあって、良い部分も悪い部分もあるキャラクターでした。だから子どもに好かれるんだろうな。

 

しかしひとつ引っかかってる点があるんですが、ビル・サイクスって文字が読めるんですかね。フェイギンがビルに本を渡す場面、ビルが文字を読めない場合、かなり皮肉な感じになると思います(読めなさそうだよね、現役のギャング団10人の中で読み書きができるのはディッパーだけって書いてあったし)
 

 

 

愛に生きる女ナンシー

フェイギンのもとで5,6歳から15年働いていたナンシー。今はビル・サイクスと一緒に行動をしているので、現在は20歳ちょっとすぎかと思います。

この物語で一番見る人によって意見が分かれそうなのがナンシー。ダメ男好きのかわいそうな人にも、パワフルに生き抜く女傑にも見える。

 

わたしは初め「いや、分かるけどその男はだめな男なので、まじでアカン、ナンシー…」と同情したのですが、回を重ねると「この人めっちゃくちゃ強いな!?」とも思うようになりました。

 

多分ナンシー本人も、ビルがだめな男というのはわかってるんですよね。

 

ほかの誰かに愛せるというの

ナイフのような彼のこと

あんたたちにはどう見えようと

彼にはあたしが必要なの

 

あたしが彼の帰る場所を

守り続ける どんな時でも

 

あたしたち2人闇の中で

巡り会えた道連れなの

ひとりぼっち生きてきたあたしには彼だけ

彼に必要とされる限り(As Long As He Nees Me)

 

 

 

 

いや、分かる。
分かるんですけど、絶対だめじゃん。フェイギンのもとで盗みをしているときに出会って、「この人だ」って思って押し掛け女房したのかなと勝手に思ってるんですけど、若気の至りじゃない!?

ビルって原作で確か38歳なんですよ。ナンシーと18くらい離れてる。お互いの状況がうまい具合にハマって一緒にいるんだと思いますが、18歳年下の女の子に何かしら(多分そこには母性なども含まれてる)を求めるのって、割とグロテスクですよね。

 

現代の価値観を当てはめるのはな…と思いつつ、18歳差…未成年…と考えると、モヤモヤします。

 

 

幸せな結婚

穏やかな家庭

憧れるけど…

あたしはいいんだよ

これが

人生

(これが人生 It's a Fine Life より)

 

あんなめちゃくちゃな男に惚れているにも関わらず、幸せな結婚や穏やかな家庭に憧れているから、ナンシーの人生ハードモードって感じです。

 

幸せへの憧れがあるからこそ、悪いことを知らないまっさらなオリバーに希望を見て、オリバーをかばったのかもしれません。
 
 
 
ナンシーは強い…と思ったのは自分の意見をはっきり言うところ。結構ビルに盾突いてるんですよね。
彼が望むなら何でもやるわ
正しくても間違いでも

 

こう言っている割には、オリバーを連れ戻すときやアジトに連れ帰ったときに、ビルに反駁している。ちゃんと自分の意見はビルに言うし戦う、そこが他の人と違うから、ビルはナンシーをそばに置いているのかなと思いました。(おもしれー女枠)

 

 

 
 
 

問題児ビル・サイクス

名前を呼んではいけないあの人みたいになってたビル・サイクス。
確かにワルなんだけど、もはやビル・サイクスという名前や存在を周囲が恐れていたのではないか。菊池寛の「形」みたいな感じで。パンフにも書いてあったけど、まわりの人が「ビル・サイクス」を作り上げたのかもしれない。
ナンシー以外、誰もビルの内面は見てなかったんだろうなと思います。かわいそう。

 

 

 

 
プレビュー公演ではナンシーを撲殺する際に意味のある言葉を発していなかったのですが、本公演では「俺を見るな!」「目を閉じろ!」と言いながら棍棒を振り下ろします。
 
俺を見るなじゃねーんだわ。
 
身勝手の極みです、嫌だなー、クズだなー!
最期の時、ナンシーはどんな表情をしていたのか。この台詞で観客に疑問を投げかけることに成功しているし、二人の関係に奥行きが出る
 
この変更最高だな、誰がやったの?推し?と思いましたが(推しは割と演技を変えてくる)、海外のOLIVER!でも英語で同じようなセリフを言っていたので、監督の指示なのかもしれません。プレビューと本公演を観た人へのサプライズか??
Wキャストの原さんがどうなってるかまだ確認できてないので、次観にいくのが楽しみ。
 
 
このセリフの変更で舞台版のビル・サイクスの厚みが増したので、回を重ねるうちにどういう風に演技が変化していくのかわくわくします。(推しが演じるクズの役がとても好きだし、哀れでかわいそうなクズが好きなので…)
 
 

パンフレットにはナンシーとビルについて「お互いを求め合う関係」と書いてるんですが、「強い男を得た自分」に価値を見出している部分もあるのでは…と少し思いました。それが自分の自信にもつながっているというか。そう考えると「求め合う関係」という表現は納得。

 
 

キャストあれこれ

まだまだ観る予定なので、現時点で印象に残ったキャストの話。

 
・ドジャー役の川口調くん
特技のバトンを取り入れた演技がかっこいい!
 
・ドジャー役の大矢臣くん
滑舌が良くて台詞が聞き取りやすい。声が低いこともあり、兄貴分!って感じ。
 
・ニッパー役の髙橋維束くん、渡邉隼人くん
ソロパートもフェイギンを騙そうとするところも、小脇に抱えられるところもかわいい
 
・ビル・サイクス役の推し(spiさん)
畳み掛けるように喋るところが好き。魅力的なクズの演技がべらぼうにうまい。哀れでかわいそうな暴れん坊ビル・サイクスをどう表現するか、どう変えてくるのか楽しみ。
 
 
内容について取り留めなく書いてしまったので、次はもっと個々の演技などについて書きたい。
 
 
 
 
それでは皆さま、良い推し事ライフを!!
 
 
 
 
▼関連記事▼ 

今のところBBC版のビルが一番クズ

 

 

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後継機が出たそうなので、ちょっとずつ更新していってます。感想うれしい。

 

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*1:9月30日〜10月6日までがプレビュー公演、10月7日〜本公演

2021年・上半期推し事振り返り

 

観劇まとめ

 

 

いつの間にか7月ですこんにちは!
ブログをほぼ書かないまま半年が過ぎましたが、やることはやってます。
上半期振り返り、行くぜ!

 

 

1.壽乱舞音曲祭

壽乱舞音曲祭 サイネージ

親の顔より見たサイネージ

1 月9日〜23日、全19公演

楽しかった音曲祭。刀ミュでは初めての全通でした(歌合は全都市行きつつも3,4公演?行けなかった。帝劇とかは去年全通してた)

推しにモヤモヤを抱くことが多かった去年だったけど、板の上に立つ姿はやっぱり好きだと再確認。

高野くんとダンスバトルしたり、佐藤流司とふざけたり、もっくんと歌でバチバチしたり。本人も楽しそうで何よりだった。

ウインクする目を一回だけ変えてきたのもかわいかったなーー!

 

こんなに楽しい刀ミュの現場はもう二度とないだろうと思って会期中に切なくなった。(一席空け、発声禁止などで席ガチャ外れを回避できたので)とはいえ毎日楽しくてテンションがブチ上がり、毎日床で行き倒れていた(ベッドで寝ろ)

しかしガーデンアリーナ遠いなー!仕事終わらせてマチソワする日が大変だった。衣装ブログもやってたし。

完全に自分の趣味だけど、①毎日何かしら新品の物を身につける、②毎日メイクを変える、って縛りで通ってたから、毎日慌ただしくて目が回りそうだった。楽しかったけどな!

 

 

2.ミュージカル「パレード」

ミュージカルパレードの感染対策

しっかりした感染対策

TLでフォロワーさんが激推ししていたり、ラジオで特集されていたり。ストーリー的に絶対好きなやつだ…と悩んでいたけど、公演チケットが既になく。

なら遠征すればいいじゃない!と日帰り遠征で観てきました。

サカケンさんに持って行かれた……今まで歌がうまいおじさんとしか思ってなかったんですが(ごめんなさい)、演技も歌もえげつなかった。あの役、推しにもやってほしいな。

 

終演後、やけに人の流れが偏ってるな?と思いついて行ってみると…

ブランニューミュージカルコンサート2021

3/5がジャージー・ボーイズ

あ!今日だったんだ!

当日券あったら観ようかなーなどと思いましたがなかった。残念。

 

3.ミュージカル刀剣乱舞 東京心覚

3月7日〜5月23日、確か4,5公演?

混乱した人が多かったという東京心覚。わたしは今までの刀ミュで一番好きでした。特命調査をやってないから知らない刀剣男士ばっかりだったから大丈夫だったのかもしれない。

心覚はエントリ書きたいなー。心覚無理組の意見(マシュマロでもらった)のも書き留めておきたい。

余談ですが、わたしはパライソ紙くず組で観劇できてないのに、毎回豊前に泣かされてました。ちくしょう!

  

3.原田優一「the Song of Stars」ゲスト

3月27日、28日

過去、伊礼さんのイベントで行ったコットンクラブ。「美味しいものを食べてお酒を飲んで、ふわふわしながら推しの歌を聴けたら最高だよねえ」と友人と話していたら、ゲストという形で実現した。やったね!

残念ながらこのタイミングで飲食は怖かったので、ドリンクだけ頼みました。

早く飲み食いしながら音楽聴きたいなー

 

 

4.spiカレンダー発売イベント

spi カレイベ カレンダーイベント 感想

星稜会館初めてきた

4月11日1〜3部

2部以上購入でチェキが撮れたんですね。だから何を言うかすっごくシミュレーションした。…にも関わらず、チェキ撮影直前に「会話は×、透明パーテーションあり、チェキ列に持ち込めるのはカレンダーのみ、ポーズ指定不可、表紙を見せて撮影」とのお達しが。

しょうがないから「お前が好きだ」「お前を見ているぞ」と伝えてきました。ジェスチャーで。

 

 

5.FAKEMOTION -THE SUPER STAGE-

4月29日マチソワゲストだったものの、推しが出る回は中止。残念。

 

 

6.ダブル・トラブル

5月3日プレビュー公演

絶対観たいやつじゃーん!どんなのかな、フリーコミィテッドみたいなやつ?と思ったら、もっくんも原田さんも早替えをしててびびった。最後まで明るい気持ちで観られてハッピーな演目!

 

 

7.GREATEST HITS from Musical Movies

 5月15日マチソワ、5月16日マチネの全3公演。

歌が上手い人が集まるのは良い。推しのスーツは作りたいって言ってたやつかな?と一人でソワソワしてた。なんでスーツにオールホワイトの白ハイカットなんだろう。サイズなかった?サクセス荘の虎次郎のエナメルシューズ買取りしたら!?

スーツでかっこよく決めた推しの歌を堪能できた贅沢な2日間だった。

 

即興アレンジの打ち合わせをアッキーさんとステージ上でやってたのにほっこりしました。ジャージーで一緒だった時のノリで「こいつなら合わせられる」って思ってくれたのかなーアッキーさん、などと思った。

 

 

8.曲がまだないミュージカル M14-きっとまだ

5月19日配信。正直よくわかんなかった。主人公の男がいけすかない。


 

9.spiファンミーティング「TENPTATION」

spi ファンミ テンプテーション temptation 感想

 

5月22日1〜3部

いつもの推しのファンミって感じで楽しめた!セトリも変えてきて、各部で8曲くらい聞けて大満足。すーごいにこにこだったり、歌の途中は真剣な表情になったり。どの曲も素敵なのでカバーアルバム出してほしい

スーツはオーブコンで見たやつだった。2回目のファンミのときのスーツも3部で着てて「もうそんなに体を絞ったのか!」と驚いた(推しは体型の変化が激しいので)

推しのファンミ、vol.2から発声制限があったんですよ。だからこのご時世でもスムーズでしたね。時代を先取りじゃん!イイネ!

 

 

10.ZIPANG OPERA ACT ZERO〜暁の海〜

ジパングオペラ ジパオペ ZIPANG OPERAグッズなど

6月17〜20日 6公演

出てくれて本当によかった。この演目で一皮剥けたというか、自分の在り方を考える最後のピースがはまったんだろうなと思った。

さてはジパオペで殺陣やるだろ!?佐藤流司が刀持ってたし、推しも刀振ってるって言ってたし、そんなに手にマメ作って!と思ってたら、やっぱりありました殺陣。もう暴れん坊将軍やりなよー、似合うよ!でも上様って抜刀しないから無理かな。

それぞれ異なる個性を持った4人の化学反応が楽しい、めちゃくちゃかっこいいステージだった。これもブログに書きたいな。

 

 

11.ロックミュージカルMARZ RED

アニメはさらっと見てたものの、舞台はパスしようと思ってたんですね。これをどうやってミュージカルにするの?と思って。が、ニコ生で初日配信を見て、気が変わった。歌が上手いキャストが多すぎ。2部の初めらへんで歌がうますぎる!行くわ!と思いチケットを購入。

推しの配信と時間が被ったから、2部の途中までしか物語は見てなかったんですね。だからタケウチにびっくりした。ああいう考え方するキャラだったんだ!え、好き!って。

 

全然関係ないけどマズレをミリしらの友達が考えたストーリーがおもしろいから見て。

マーズレッドあらすじ

タケウチが主人公なの!?

マーズレッドあらすじ

ストレスで白髪は草。そしてサカケンさんじゃねーよ

マーズレッドあらすじ

タケウチの呼び方が多すぎなんよ

マーズレッドあらすじ

歌がうまいのはあってるからなおさらオモロやん


あと舞台・イベント2本くらい見てると思うけど割愛

 

 

【配信系】

  • サクセス荘 振り返り上映会関連
  • ヒプステtrack4
  • スリル・ミーオンライン配信 成河・福士誠司ペア
  • オダイバ!超次元音楽祭
  • 声の王子様2020
  • ニコ生のレギュラー放送

配信はこんな感じかな。スリル・ミーは3本連続に耐えられないと思ったので成河だけにしました。

 

 

その他やっていたことなど

なんだかんだ言いつつ、オダイバ以外は推しの現場は全部全公演行ってた。まじめだな。 

 

あとはね〜工作してました。ほんと今更すぎるけど、硬質カードケースデコをしたりミニフラスタを作ったり。たのしい。エントリ書きたい。

サクセス荘フラスタ!?と見せかけて、昔出したフラスタのミニチュア版。でもサクセス荘ミニフラスタも作る予定ではある。2種類くらい

ジパングオペラ ジパオペ ZIPANG OPERAミニフラスタ

ジパオペミニフラスタ。最終的にもう少し手を入れました。

刀ミュ 豊前 硬質カードケース デコ

初めての硬質カードケースデコは豊前。ミーハーに盛り盛りできるから…

 

そのほかは漫画や本を読んだり。

 

今気になってるのはこれ

 

  

いま現在発表されてる推しの次の舞台が9/30~なので、はやくその手前の仕事などを知りたい。情報解禁はよ。

 

 

それでは皆さま、下半期も良い推し事ライフを!!

  

 

 

  

 

 

▼舞台が復活してきたぞ!双眼鏡の出番だ!!!▼

双眼鏡を持ってない、今の双眼鏡に不満があるならこれを買えばよし! 

 

後継機が出たそうなので、ちょっとずつ更新していってます。感想うれしい。

 

SIGHTRON 双眼鏡 ポロプリズム 5倍20mm口径 SAFARI 5×20

 

 

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▼マシュマロやってます▼

気軽にどうぞ。だいたいTwitterで答えてます。こまめには確認してないです。

急いで何か聞きたかったり議論討論したかったらリプかDMをください。 

回答スタンスは「丁寧なものには丁寧に、無礼なものにはそれ相応に」

悪意があると感じたもの、無礼なマシュマロなどは有料noteで答えます。(先人の知恵に習う)

 

 

回答スタンスの詳細はこちら

あなたの75分をください〜ZIPANG OPERA感想〜

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いつの間にか前回のブログからとても時間が経ってしまった。
今回こそはしっかり感想をまとめてブログを書くぞ!と思っていたが、そうも言ってられなくなってしまった。
時間がないからである。

 

 


具体的に言うと、6月27日21:00が購入のデッドラインである。今気づいた。短すぎ。

単刀直入に言うと、ZIPANG OPERA ACT ZERO ~暁の海~、スイッチング映像を買って、彼らのパフォーマンスを観てください!という話です。


佐藤流司

オラついててヤカラっぽさ全開。なのにソロ曲では恐るべき求心力で観客を魅了する男。楽曲への理解度の高さがすごい。シャウトしたときのかっこよさよ…ロックと書いて佐藤流司と読ませるんじゃない?

福澤侑
ダンディキドンダンディキドン♪ってとこの振りで一人だけ2倍速かな?ってくらい脚が動く。まじでかっこいい。ダンサーに混じってもわかる高い身体能力。公演はじめ付近の観客の煽り方がうまい。まとめた髪の毛を解いてかき上げた時の色っぽさだったり目の鋭さがすごい。
 
心之介
作詞作曲もできる、澄んだ歌声の持ち主。舞台でふざける男spiに前楽で笑わせられた被害者。
大丈夫?全員心之介のこと好きにならない? 俳優3人に囲まれていきなり国際フォーラムという大舞台に放り込まれた歌い手。毎日進化していくパフォーマンスにハートを握り潰された者も多い。
 
spi
そうだこの人、もともとボーイソプラノ出身だだったね?演じたキャラのイメージと2018年の舞台での鍛錬で低音が出るようになったから低音の印象が強いけど、もともと美しく繊細な歌声の持ち主だったね? と見せかけて低音から高音への収縮するような音の出し方で情感を込めたりもしちまう男だったね?
そしてカクカクしたダンスがとても得意なのである。お経みたいな曲で遺憾なく発揮されるダンススキル。
 
 
 
みたいなざっくりした感想で観たいと思った人がいたら観てください、約75分で終わります!
2500円でジパオペのライブを観てくれ!今のところ円盤化の情報などが出てないので。
11/3発売の1stアルバムにライブ映像が特典でつくことになりました!まじでかっこいいです。(かわいい曲もあるよ)
 
 
 
ちゃんとした感想は後日書きます。
全人類観てくれ!!!!