ミュージカル刀剣乱舞が目指す場所〜舞台と観客と、これからと〜
ミュージカル刀剣乱舞 葵咲本紀が幕を閉じました。
8月頭から10月末、およそ3ヶ月弱、全74公演の長期舞台。
役者急病による5公演休演、代役を立てての再開というアクシデントを経ての大千秋楽。
舞台は一瞬しかない輝きを目撃できる場であり、無事に幕が上がるのは奇跡なのだと多くの人が感じたのではないかと思います。
今作の感想などは書き足りないので追加で書く予定ですが、初日を観劇してからずっと感じていた話を今日はします。
ミュージカル刀剣乱舞はどこへ行こうとしているのか? です。
前置き
自分は刀ミュを一生懸命追っているオタクではない
日本史・伝統芸能の知識はない
小劇場〜グランドミュージカルまで観る
推しが出演していないと、2.5はあまり観ない
以上を踏まえて今作・葵咲本紀を観た人間が感じ、ぼんやり考えた話としてお読みください。
結論を先に書きます。
こんな風に感じました。
順を追って書いていきます。
ミュージカル刀剣乱舞の変遷
刀ミュがここまで息の長いシリーズになるなんて、制作側も初めは思ってなかったのでは、と思う。手探りの状態で初めて少しずつ実績を積み、今は刀ミュだけじゃなく2.5次元全体、ひいては日本の演劇自体の未来を考えてるんじゃないか?と葵咲本紀初日を観て感じた。
阿津賀志山異聞〜つはものどもがゆめのあとまでの公演メインビジュアルは、春夏秋冬がモチーフになっていた。
冬で一巡するとして、そこで終わるのか、それとも新たな章へ突入するのか…というのは多くの人が気にしていたのでは、と思う。なにせゲーム刀剣乱舞にはストーリーらしいストーリーがない。終わろうと思えばいつでも終われるし、その逆も可能だ。
これが現時点での刀ミュの演目だ(☆が海外公演あり、プレミアム会員限定ライブは除く)
自分は in厳島の配信で初めて刀ミュというコンテンツに触れ、真剣乱舞祭2016から現場に行くようになった。コンテンツをがっつりと追いかけているオタクではないので、公演を観た回数はまちまちだ。海外公演に行ったものもあるし、配信で済ませたもの、観ていないものもある。
そんな自分が過去〜現在の演目を振り返った時に、刀ミュは加州清光単騎出陣2017、つはものどもがゆめのあとあたりから長期展開を見据え始めたのかなと感じた。
再演、そして新たな試みから感じたこと
阿津賀志山異聞2018 巴里の発表時、TLがざわついたのを覚えている。海外へのお披露目という事で、原点である公演を…というような解釈をした人が自分の周りは多かったように思う。
そして三百年の子守唄再演。
刀ミュは何をしようとしているんだろう?とちらりと思ったが、推しが出るので深く考えずに劇場に足を運んだ。
おや?と思ったのは、双騎出陣だ。
明らかに攻めているし、毛色が違う。
そして今作の葵咲本紀を観て、あ、これは本気だ…本気で攻める気だ…!と感じた。
双騎も葵咲本紀も、良くも悪くもこちらの予想を裏切ってきた。予想できるというのは、つまり型ができているということだ。刀ミュはそれを壊して次に進もうとしてると感じた。葵咲本紀を初日に観た時に、2.5でその演出面を打っ込むのか!?という驚きがあった。
マンネリ化防止の延命策、守りの姿勢ではない。
2.5次元舞台って「珍妙な格好をした役者が漫画やアニメのキャラクターを演じてる」って印象が強いと思う。世間的には、まだまだ「普通の舞台」とは捉えられ方が違う。格下の、イロモノ・キワモノ枠。
でも特殊な捉え方をしているのは「“普通の”舞台を観る人」「舞台自体を観ない人」だけじゃない。2.5次元舞台を観る層も、漫画やアニメ、ゲームの文脈で観てると思う。
刀ミュは最近、その文脈を露骨に破壊してきたように思う。「2.5次元」の枠を壊して脱皮しようとする明確な意思を感じた。
「この人たちは真剣だし、2.5次元バブルに危機感を持っている」
「2.5次元のトップランナーたち」を読んだ時にわたしはこう思った。
その後、葵咲本紀を観劇して感じたのは、先を見据えた制作側の強い思いだ。
あらゆるものを取り込みガンガン攻める姿勢。2.5次元の一演目ではなく「刀ミュ」というジャンルを作り、「日本の演劇界」を変えようとしてる。ガチで世界と戦うためのコンテンツに刀ミュを育てる気だ…と衝撃を受けた。
いつから長期化を意識したのか
明らかな変化は双騎出陣からだと思うけれど、舵を切っているのはもっと前なんですよね。過去、つはものの時点で自分はこういう感想を抱いている。
今作は今までで一番ミュージカルしてる…!と思いました。 今までの刀ミュは、お話の中に歌唱パートが組み込まれてるという印象でしたが、 今回は歌でストーリーを語るシーンがある。
【19.08.04追記】刀ミュ「つはものどもがゆめのあと」感想と考察 - 晴れた日のねどこ
歌で物語を紡いでる。
三百年の子守唄でも歌で感情表現をしていたけれど、少し唐突というか、まだ遠慮があったように思う(実際、歌い出す蜻蛉切に驚く村正の演技があったし)。
ほかの人がどう思うかはわからないけど、自分の中ではつはものが転換点という印象があった。
そんな自分が過去〜現在の演目を振り返った時に、刀ミュは加州清光単騎出陣2017、つはものどもがゆめのあとあたりから長期展開を見据え始めたのかなと感じた。
再掲しつつ、ここからは完全な妄想。
加州清光 単騎出陣2017は、原作・刀ミュでも人気が高いキャラを起用して、とにかく楽しませることに特化したものだったと思う。「ジャニーズのコンサートみたいだ!(見たことないけど)」ってびっくりした。
なぜ単騎出陣が必要だったか。それは既存の刀ミュファンを飽きさせないためと、新規ファンの獲得(劇場に足を運ばない層へのアプローチ)のためなのかと思う。
息の長いシリーズになると、新規参入のハードルが上がる。
自分の話になるが、メサイアシリーズとTRUMPシリーズに関しては、気にはなるが一体どこから手をつければ…?と長いこと逡巡していた。
そういう時、あまり頭を使わずにただ楽しめるものを提供してもらえるととても助かる。
話を戻す。
フックとして単騎出陣を使い、その次のつはもので明らかな伏線を張る。
この辺りで長期化を見据え、過去作との齟齬が出ないよう物語を組み立て直そうとしたんじゃないか、とわたしは感じた。
刀ミュは「刀剣男士の物語」ではなく「刀剣男士と人間と歴史の物語」を描こうとしてるんだと思った。そのためのむすはじであり、阿津賀志巴里であり、みほとせ再演。これらの上に成立するのが葵咲本紀なのだと思った。
— かんそうぶん🙌🎙🎶🕺💿✨ (@KansouBn) August 4, 2019
刀ミュを楽しめる層が先鋭化している?〜疑問と不安〜
2019年11月1日現在、先日発表された歌合 乱舞狂乱の映像に、物語の予想・考察をしている人がとても多い。
刀ミュの設定は、深掘りすればどんどんいろんなものが出てくる。あらゆる分野の要素をうまく盛り込み作られた、スルメ系の設定だ。
しかし、物語の骨格は王道…というか平易ですらある。例えば葵咲本紀のテーマにのみ焦点を当てて話すと、完全に若者向けの話だと思う(愛や夢をどストレートに描いている)。
観る人によって見える面が違うのが刀ミュのおもしろさだ。
刀ミュは挑戦をしつつ、一種の啓蒙をやろうとしてるのだと思う。
日本文化や古典を取り入れつつ、舞台としての完成度を高め、世界に打って出ようとする。
その上で、2.5次元以外の舞台へ興味が持てるよう、観客を誘導しようとしているのではないか。舞台の間口を広げ観劇人口を増やしたい、舞台界隈を盛り上げたい気持ちは確実に持っていると思う。
刀ミュの良いところのひとつとして、私は「予備知識無しでも前作を知らなくても取っ付き易い」ってのを感じてたんだけど。
— 端葉やち@次のイベントは12/8 (@hashiba_y) October 25, 2019
初めて前作(みほとせ)を見てないと成立しない話を作ったのは新しい試みだと思った。
たぶん意識して単品で見れるように作ってたんじゃないかと思うんだけど制約を外したのね。
過去の作品と似た話にしないマンネリ防止の為もあるんじゃないかと思うけど。常に新しい物に挑戦していこうっていう意欲の表れだと思ってるから、「明確な続きモノ」を作ったことを悪いとは思わないけど、まあ今までの作品全部見てないと分からない部分が散りばめられてるからミュを好きな人向けだね。
— 端葉やち@次のイベントは12/8 (@hashiba_y) October 25, 2019
ただまあ私、結構刀ミュの「わかりやすさ」をすっごく評価してたんだけど
— 端葉やち@次のイベントは12/8 (@hashiba_y) October 27, 2019
葵咲本紀の難易度だいぶ高い的なアレは、ある意味振るい落とされる人もいると思う。
自分は刀ミュ愛があるから着いてくけど。
刀ステとか、つはものとか葵咲本紀とかみたいな「ループネタ」って一定数苦手な人もいると思う…
わたし(や自分の周り)が気にしていたことが、引用したこのツイートに書かれていた。
自分が娯楽作品に求めるものは、それ単体で完結すること、楽しめること。その上で知識があればより楽しめる…というのが理想だと思っている。
さっきも言ったように、刀ミュの根本のテーマは平易で、若者向けだ。それは多くの人に門戸を開くためだと思う。
知識なしで意味がわからない舞台はハードルが高い。
それは過去作の知識もそうだし、歴史や神話、当時の風俗。そういうものがわからないとカタルシスが得られない作品はすっきりしない。
初めからとっつきにくい作品であれば、予習はしていくと思う。
が、刀ミュは娯楽作品だ(今のところは。たぶん)。そのつもりで観に行って、複雑な設定、伏線、知識が必須だった…となるのはわたしはつらい。
一部が知識必須だとしても、ライブパートでは思い切り楽しめる。
だけど個人的にはどちらもめいいっぱい楽しみたい。
- 考察好き
- 刀ミュというコンテンツ自体が好き
- キャラクターが好き、彼らが歌って踊るのを観られるのがうれしい!
日本文化や古典を取り入れつつ、舞台としての完成度を高め、世界に打って出ようとする。
その上で、2.5次元以外の舞台へ興味が持てるよう、観客を誘導しようとしているのではないか。舞台の間口を広げ観劇人口を増やしたい、舞台界隈を盛り上げたい気持ちは確実に持っていると思う。
刀ミュを観ているのは観劇人口の一部でしかない。
もともと2.5以外の舞台を観る層にリーチするには「2.5は魅力的なもの」とのアピールが必要だと思うし、観劇しないオタク層にはとっつきやすさが必要だと思う。
刀ミュが先に引用したような想いを持っているのだとしたら、どうやってそれを両立させていくのだろう?という興味と疑問がある。
何にも飾らない本音を直球で書くと、「刀ミュに興味を失いつつあったけど、今回の伏線で過去作への興味が湧いてきたし、次作への期待が高まった。が、小難しくなるのは嫌だなー!!!! 楽しくキャッキャしたいよー、高尚なのは嫌だよーー!!」という感じです。(赤裸々すぎ)
自分はBLUE/ORANGEやN2Nなど、精神疾患を扱うような重たい話が好きですが、それはそういう気持ちで足を運ぶから思い切り楽しめる。刀ミュは娯楽作品として観たいので、それが難しくなったら離れるタイミングかな…と思ってます。(サンドイッチを食べるつもりだったのにカツ丼が出てきたらびっくりするんだ…)
それではみなさま、良い推し事ライフを!
▼激熱!双眼鏡ダイマ記事▼
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・メサイア トワイライト ー黄昏の荒野ー感想 ★★★★★★★★★★☆☆(たぶん次作とあわせて、メサイアシリーズ全体の感想にします)
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