晴れた日のねどこ

答えの出ないことばかり考えている

声優落語天狗連13で狂気を目撃した話

 
 
ブタキンの興奮が冷めないまま過ごしていた*1 11月半ば、友人が「五十嵐さんの落語があるけど興味ある?」と連絡をくれた。五十嵐さん!ブタキンで最高の鷹梁ミナトを見せてくれた、あの笑顔が最高に素敵な五十嵐雅さんですか? えっやだ!行きます!と即答。先行抽選で無事にチケットをもぎ取って、11月26日(日)に浅草・東洋館でみてきました。
ブタキンでの五十嵐さんの眩しい笑顔とお手振りに「あっ素敵ですね…!」と思い、ものすごくミーハーな気持ちで行ったのですが、すごかった。
 
わたしは五十嵐雅の狂気を見た…!
 
 
演目は「うなぎや」になるのかな。あらすじはこちらに。
 
 
ブタキンでの鷹梁ミナト役の温和な雰囲気の印象しかなかったため、かなり驚きました。ニュルニュルすべるうなぎを掴むシーンがあるんだけど、えっこのひと気が狂ってしまったの?と思いました。やだこわい。すべらないように、おが屑をこんもりうなぎにかけるシーンも「ウェヒヒヒ!」と危ない表情と笑い声を浮かべながらの動作で、「あっこれ放送禁止になるやつじゃない?へいき?と見ていて動揺。
「こんばんは」と静かな調子で高座に上がって話し始めた声のトーンと、落語が始まってからの見せ場での、鬼気迫るというか狂気じみているというか、どことなくサイコパスな雰囲気を醸し出しながら苦手なうなぎを掴もうとする店主の演技(?)、最高でした。
 
そして落語が終わってからお辞儀をするとき、微かに、本当に微かに膝の前で揃えた両手の指が震えていたのを見て、めちゃくちゃきゅんとしました。
 
 
声優落語天狗連は初めて行ったのですが、昭和元禄落語心中から始まったイベントなんですね。落語が始まる前のトーク落語研究会出身のニッポン放送アナウンサー・吉田尚記さん、アニメ好きかつ落語研究会出身の学者芸人・サンキュータツオさんでした*2。お二人の話も面白い。「宝石の国おもしろいよね!」「与太郎じゃなくてフォスフォライトが買い物に行く…というような落語ができる」だとか「今日のイベントはプリズムショーですよ!」だとか、立川志ら乃さんに稽古をつけてもらう五十嵐さんのVTR開始前に「ここは応援上映で大丈夫ですよ!」だとか。お客さんもノリノリで「なんでクマ(のぬいぐるみ)そんなにあるのー?」「(志ら乃さんに対して、服の)タグついてるよー!」「(五十嵐さんにダメ出しする志ら乃さんに対して)そんなことないよー!」VTRが終わった後の吉田尚記さんの「(志ら乃)師匠を否定するな笑」というツッコミに、会場爆笑。
 
 
五十嵐さんの落語が終わってから、どのように稽古をつけてもらったのかなどの裏話があったのですが、それもおもしろかった。汗びっしょりで、でも「やりきったー!みたいな表情がキュートな五十嵐さんを良席で眺めながらトーク聞いていたのですが、
 
五十嵐さん、頭がおかしい人なのかな…?(ほめてる)
 
落語は全てが見えてしまう。稽古をつけるのはカウンセリングのようなもので、声優さんに稽古をつけるのももう10回を越えている、志ら乃師匠曰く「『症例』が増えていく」
五十嵐さんは感情を込めるのではなく、耳で音を聞きその場の雰囲気を汲み取って最適な演技をしてしまう…という部分に悩みを抱えているのでは?志ら乃師匠は思い指摘したところ、五十嵐さんは「そうなんですよ!」と。志ら乃師匠は「落語ではそれが武器になる」とアドバイスをしたそうで、それがブレイクスルーにつながったとかなんとか(すみませんこのあたりうろ覚えです)
はじめに「稽古をつけてもらうときはお土産を渡すものだ(でも1000円くらいのもの)」というような話を聞いた五十嵐さん、夜のお菓子・うなぎパイミニ(10本入660円)を渡し、その次には普通のうなぎパイを、そして最終的には真夜中のお菓子・うなぎパイ V.S.O.P.を手土産にしたそうです。グレードアップする手土産。落語の演目が「うなぎや」だからうなぎパイ縛りなのか?(かわいい) 
 
VTR中、師匠から言われたことに「こうですよね?」と問いかける五十嵐さん。志ら乃師匠は「そういうのはいらないんだ」と言いますが、五十嵐さんはなかなかそれがピンとこなかったそうです。どうすれば自分のフィルターを通さず物事を受け入れられるのか。考えて考えて、その結果たどり着いたのは「壁に耳あり障子に目ありでした!」とそのときの出来事について晴れやかな顔で五十嵐さんは舞台の上で語ってくれましたが、吉田尚記さんにも志ら乃師匠にも「説明が下手くそ!」「情報量ゼロ!」とダメ出しされます(かわいい)。
具体的にどういうことかというと「僕は学生時代、安いアパートに住んでたんですよ。壁もベニヤで薄くって、音が筒抜けの。そんなわけで、隣の生活音が聞こえてくるわけです、こう、男女の営みというか。そのときの感じです!壁に耳をくっつけて、ただ無心に隣の音を聞く。そのとき、自我はないわけです!
 
ま、ま、まさしーーー!!!(かわいい)
 
言いたいことはすごくわかった。だが、その使い方は確実に間違っているぞ!でもかわいいからオーケーだ。
 
 
 
この声優落語天狗連というイベント、はじめは声優さんの、そのあとは落語家さんの落語を聴くという趣旨なのですが、この第13回目は少し勝手が違う、と司会のお二人。「これがスタンダードな落語だと思わないでください」「落語というのは古典落語と新作がある。次に登場する人は新作しかやらない」「でも大体ウケない」「普通はそこで(めげて)古典をやる。でも彼はそれをやらない」「新作のいいところは、誰もあらすじを知らないから、間違えてもばれないし、アドリブを入れられるところ。でも彼は一切それをやらない」「彼の言っていることは意味がわからない。演じ分けもできない。でも聞いていると意味がわかってくる」「聞き手を信用し、その想像力のもとに成り立つ落語」「ここに集まっているのはアニメファンだから、想像は得意なわけです、アニメも、あれは動いているわけではなく静止画の連続ですから!」という前説。いったいどんな人が現れるの…?とそわそわ。
 
 
出てきたのはつやっとふくよか、笑顔が柔和で愛嬌のある男性。滝川鯉八さんというらしい。話し方に独特のクセがあってかわいらしい。キュート…。
そして前説通り、意味がわからない。
客席も「いったい何が始まったの…?」と、はじめのほうは若干動揺してたと思う。
だけど聞いていくうちに、独特の語り口にどんどん引き込まれていく。ほ、ほんとだ……!!い、い、意味がわかる…!まあちゃん!!!まあちゃんかわいいよまあちゃん!!!!
わたしもこんぺいとう欲しい!!!
 
新作落語ということで、あらすじを語ることは控えますが、本当に面白くてお腹が痛くなるくらい笑いました。演目は「俺ほめ」と「暴れ牛奇譚」の2席。途中から、何もしゃべってない時間ですら面白くなってきて、何気ない一言にも笑いをこらえてました。でもおかしいだけじゃないんです。
 
ほとんどの高座で自作の新作落語を口演する。人間の心の狭量さや、物語の始まりを渇望する心理など、これまで落語が描くことのなかったテーマを追求した作品が多い。

 

高座が終わったあと、司会のお二人もおっしゃってました。「人間、大概が自分を中の下だと思っている。瀧川鯉八の落語は、中の下の人を救う落語だ」と。ほんとうにそれは痛いほど感じて、2席目の「暴れ牛奇譚」の民子の心情を語る姿には、胸がぎゅっとしめつけられました。なのに面白いなんて…ずるい…!「俺ほめ」も、人によく見られたいという下心がコミカルに描かれていて本当に好き。
 
本来なら、そういう人間の心の狭量さってあまり見たくないものだと思うんですよ。だけど鯉八さんの軽妙でチャーミングな独特の語り口で、それが全然嫌じゃない。むしろ「こういう人いる!」「こういうところ自分もある!」と、すっきりした気持ちで明るく笑える。だけど笑いの種類はなんだかシュールな印象です。わたしは『伝染るんです』のようなシュールな笑いが好きなのですが、そういう雰囲気が若干ある。
 
本人も手応えを感じられていたようで、「今までで一番ウケた」とおっしゃってました。司会のお二人も絶賛。ただ、志ら乃師匠は鯉八さんがウケたことが面白くなかったのか、ブスッとしており「2席目でスベれ!と思ってた」とおっしゃってました(かわいい)。観ているこちら側も、大声でげらげら笑わせてもらって「歴史的瞬間を目撃した…!」という気持ちに。
 
鯉八「下世話な話なんですけど」
吉田「あ、あんまり下品なのはやめてください」
鯉八「あ、はい。もう気持ち良くて乳首がビンッビンになりました」
吉田「下半身が上半身になっただけじゃないですか!笑」
 
 
とにかく神がかったイベントだった…!と思います。五十嵐さんと鯉八さんの組み合わせが最高すぎた。その後、杉並かな?の小学校での地方寄席に五十嵐さんが出られるとのことで、観に行くつもりでしたが地域の方限定になり断念。12/24に別の落語をされるということなのですが、残念ながら先約がありそちらも参加できず。ただ、鯉八さんの落語はこのイベントの後も聞く機会に恵まれました。そのことについてもおいおい書きたいです。
 
 
鯉八さんの「俺ほめ」はこちら。
聞いててまた笑ってしまった。鯉八さん、すき…!
 
 

 

鯉八さんも五十嵐さんも推さざるをえない…!
また観に行きます。
 
 

*1:いつまでたってもブログに感想がアップできてない。忘れる前に書きたい

*2:仕事中に「荒川強啓デイ・キャッチ」を聞いていた期間が数年あるため、サンキュータツオさんを拝見できたのが個人的にテンションが上がりました。